プロジェクトインタビュー
サトーホールディングス株式会社
HUB(本社移転)プロジェクト

サトーホールディングス株式会社 取締役 上席執行役員
株式会社サトー 代表取締役社長
小沼宏行 氏

「オフィス移転の豊富な実績に裏打ちされた、
幅広い視点からのアドバイスをもらうことができました」

2020年11月 サトーグループ様の新本社がmsb Tamachi田町ステーションタワーNにオープンいたしました。
当社は、このプロジェクトの基本構想から移転まで、サトーグループ様に併走しました。
プロジェクトリーダーの小沼様に、当時を振り返っていただきました。

サトーホールディングス株式会社さまの企業紹介とオフィス概要

サトー様会社概要、沿革、スローガンなど

サトーグループ様は、1940年の創業以来、高度成長期におけるハンドラベラーや、POSシステムが一気に普及した80年代における熱転写方式バーコードプリンタなど、世界初のイノベーションを起こした企業です。
「あらゆるものを情報化して、社会のうごきを最適化する。」
事業成長と持続可能な社会の実現の両立をめざすサトーグループ様のブランドステートメントです。
現在では、このステートメントの下にバーコードなどで培った経験を活かし、さまざまな現場で「人」や「モノ」の動きを情報として捉えて、生産性を高める自動認識ソリューションを、90を超える国・地域でご提供されています。

プロジェクト概要

世界中のサトーの拠点をつなげるHUBとなり、職種や階層を越えて社員の個性が混ざり合う=「stir」をコンセプトとした新オフィスの構築プロジェクト。「stir」をオフィスの中で実現させることで、人と人との相互作用やイノベーティブな創造が生まれることを目指しています。
オフィスでは社員同士が自然に交わる工夫を随所に施しつつも、新型コロナウイルスの感染拡大に配慮し、透明なパーティションの設置、ソーシャルディスタンスの確保などの対応も行っています。

明豊ファシリティワークスの業務内容

基本構想、基本計画、基本設計、設備実施設計マネジメント、調達支援、施工マネジメント

創業80周年の節目に、新オフィスでイノベーションを起こす


サトーホールディングス株式会社 取締役 上席執行役員 小沼宏行 氏

Q1 本社移転を計画された背景と目的についてお教えください。

移転の最大の理由は、社員同士の交流を促すオフィスによって社員のマインドを変え、部門間の連携を強化してイノベーションを起こしたいと考えたことです。以前のオフィスは5フロアに分かれており、部署ごとに分断されて連携がしにくい状態でした。

メーカーとして市場のニーズに沿った商品をつくるには、開発・生産・営業・保守サービス・間接部門のすべてが連携する必要があります。また、世の中の改善に役立つものづくりのヒントは、生活者でもある社員一人ひとりが知恵を出し合うところから生まれます。だからこそ、自然に交流を促すようなオフィスをつくりたいと思ったのです。

当社は、モノに情報をひも付ける「タギング」を核として、およそ20年ごとにビジネスモデルを変革し、社会に貢献する新商品を生み出してきました。2020年に創業80周年の節目を迎え、新たなオフィスで新しいイノベーションを起こしていこう、という思いを込めました。

タギング:モノや人に正確な情報をひも付け、スキャナによる読みとりなどの手段で情報を集めてソリューション・システムへつなぎ、情報を分析して、経営課題の解決や現場オペレーションの効率化に活かすこと。

Q2 明豊ファシリティワークスに対する当初の印象をお聞かせください。

明豊さんについては、移転前のオフィスにいたときから、レイアウト変更や働き方改革のサポートをお願いした経緯があり、その実績には一定の評価をしていました。

今回の計画に当たっても、IT系からメーカーなどのさまざまな業種の大手から中小企業まで、当社の参考となりそうな働き方を実現しているオフィスへの見学を企画していただきました。其々の企業様がプロジェクトを通じて検討したこと、社内の課題などをどう解決したのかも伺うことができ、とても参考になりました。そうした企業の課題解決を支援した経験も豊富なので、広い視野でアドバイスがもらえると感じ、信頼感を持ちました。

他社オフィスの見学では、ただ施設を見せてもらうだけでなく、「なぜそのような造りにしたのか」「実際に使ってみてどうか」など、その企業の生の声を聞かせていただけたのが、大変ありがたかったですね。そういうことが頼めるのは、明豊さんと顧客が良好な関係であることの証でしょう。

若手社員からなるプロジェクトメンバーの意見を集約

Q3 プロジェクトの推進・運営は具体的にどのように行われましたか? その中で、明豊ファシリティワークスの果たした役割についてご評価ください。

まず、事業会社の代表である私がプロジェクトリーダーに任命されました。会社として、社員たちへ「会社の本気度」を示した形です。次に、IT部門やコーポレートサービス部門などの社内各部署から人材を集め、事務局とテーマごとの分科会からなるプロジェクトチームを立ち上げました。メンバーは、新オフィスを今後長く使うことになる20代〜30代の若手を中心に選び、プロジェクトでの活躍もきちんと人事評価に加えるようにしています。

分科会のミーティングは合計で100回以上を開催しました。私も節目ごとに顔を出しましたが、明豊ファシリティワークスさんがワークショップやプロジェクト会議をリードして、社員たちの考えをうまく引き出してくれました。おかげで、現状のオフィスで困っていること、使いにくいところ、新オフィスではこうしたいなど、たくさんの意見が集まりました。

stirを実現する為のABW(Activity Based Working)の導入

Q4 新オフィスのコンセプトについてご説明願います。また、そのコンセプトをどのような方法で社内に定着させたのでしょうか。

プロジェクトチームの意見を集約し、明豊さんがまとめてくれたコンセプトに、私が「stir(=混ぜ合わせる)」というタイトルをつけました。当社にはデザイナー、開発者、営業などさまざまな人材がいるので、彼らの才能を混ぜることでシナジーが生まれるはずだと確信しているからです。

コンセプトの定着に向けては、明豊さんのサポートにより、移転の1年前から社内へ向けてニュースレターを配信するとともに、移転の1カ月前からは移転に関するポータルサイトを立ち上げました。このサイトの運用は移転後の今も継続しており、オフィスの使い方のモデルケースを「社員松川さんの1日」として紹介するなど、情報発信に努めています。


新オフィスのコンセプト「Stir」を表現した図。オフィスのさまざまな場所に掲示されている
Q5 コンセプト「stir(=混ぜ合わせる)」 よる新しい働き方は、社員の皆様によるワークショップで検討されたとのことですが、良かったと思われる点はありましたか?

社員が自分たちの使うオフィスについて考え、意見を出し合ったことが、自主性につながったのではないかと思います。さまざまな決めごとは最終的に私が判断しましたが、そこにはワークショップで出た意見をできるかぎり反映しました。

私自身も、若手社員が会社のことを真剣に考えてくれていることが分かり、嬉しかったですね。例えば、「会議室を長時間予約して、使い終わっても解除しないケースが多く見られるのを改善したい」など、オフィスの見た目ではなく、働き方にも通じる本質的な意見が多くありました。

その問題意識が発端となって、「そもそも長い会議が多過ぎるのではないか」と議論が深まり、「独立した会議室を増やすより、さっと集まって短時間で打ち合わせを終えられるミーティングスペースがたくさんあるほうがいい」という意見に集約された結果が、新オフィスで実現したわけです。そうしたプロセスを明豊さんがうまくリードしてくれました。

ワークショップ風景
Q6 新オフィスはABW(Activity Based Working=仕事の場所、方法、時間を社員が選ぶ主体的な働き方)をベースに計画されていますが、その中でサトーホールディングス様ならではの工夫はありますか?

当社がABWを導入した動機は、今言った「stir」を実現するためです。ですから、オフィスの中に偶発的な出会いをもたらす場、いわゆる「ワイガヤ」の場、集中できる場などさまざまな仕掛けをたくさんつくりたかった。明豊さんからいただいた設計提案はまさにそうなっていました。

移転後は、それぞれの設えに適した使い方をピクトグラムのシールにしてそのエリアに貼るといった工夫もしています。シールを作って印刷するのは当社のお家芸ですから(笑)。

ABWを実践しているのは社員だけでなく、私たち執行役員も同様に、常にさまざまな席で執務しています。決裁物などの行き先がないと困るので、一応固定席も用意しましたが、その固定席すら1〜2カ月ごとに移動していくルールです。

コロナ禍での安心安全と「集まって交流すること」の両立

Q7 プロジェクト期間中にコロナ禍が発生しましたが、プロジェクト進行に影響はあったのでしょうか。また、ニューノーマルを考慮して取り入れたり、見直したりした点はありましたか?

stirするためには社員をオフィスに集めることが前提でしたが、コロナ禍によって逆に出社率を下げなければいけなくなりました。ソーシャルディスタンスを保つためには席数を減らさなければいけないし、パーティションも立てなければいけません。

オフィス内にさまざまなコーナーを設け、デザイン的にも変化を印象づけるインテリアにした一方で、「感染防止」という要素が増えたことで、安心安全を担保しながらデザインと機能性とのバランスをどう保つか、明豊さんとともに議論を重ねました。

しかし、そのおかげでさまざまな気づきが生まれ、どこをどう改善すれば良いか分かったので、オフィスインフラの品質向上につなげることができたと思います。

例えば、S-cubeと名づけたブース型のショールームは、当初はその場で顧客へのデモンストレーションを行うことのみを想定していましたが、感染防止の観点から、オンラインで商談を行う顧客の方も見られるような環境を整えました。結果的に、海外の顧客へのアピールや地方拠点の社員研修にも使えるようになり、大成功でした。


S-cube(エス・キューブ)

オンラインより顔を合わせたほうが、生産性が上がるなら、
1時間だけこのスペースに集まって議論しよう

Q8 本社を移転されてから、社員の皆さんの働き方はどのように変わりましたか? どのような点に新オフィスの効果を感じられますか?

社員アンケートの結果では、「働きやすい」といったポジティブな意見が予想以上に多く見られました。「このオフィスにふさわしい発想をしたい」といった声をよく聞きますし、社員のモチベーションが向上しているようです。私も実際に、他部門の社員と顔を合わす機会がぐっと増えたと実感しています。

今はコロナ禍によって出社率が3割程度()になっているので、ミーティングスペースが常に稼働しているという状態ではありません。しかし、「オンラインより顔を合わせたほうが、生産性が上がるなら、1時間だけこのスペースに集まって議論しよう」というムードはできつつあります。

ソファ席や階段状のベンチ、揺れ動く椅子のあるコーナーなど、社員たちが当初は「どう使えばいいのだろう」ととまどっていた場所も、最近では上手に使いこなせるようになってきました。

地方や海外の拠点とのコミュニケーションも、先ほどのS-cubeや充実したオンライン会議システムによって、格段にスムーズになりました。

当社では以前から、従業員エンゲージメント指標「eNPS(Employee Net Promoter Score)」による働きがい調査を定期的に実施しています。その中にオフィスに関する質問もあるのですが、移転後の満足度は90%を超えており、移転前と比べて大きく改善しました。

取材時2021年7月末時点

Activity Based×3C(Collaboration,Creation,Concentration)×3C(Chatting,Changing,Connecting)を実現したオフィス

対話:Collaboration × Chatting
1対1で行われるコミュニケーション(FUNCTION)
発散:Collaboration × Changing
様々な人と視点を変えてアイデア出し(BOX:内)
整理:Collaboration × Connecting
情報をつなぎ、検討したりまとめたり(BOX:外)
専門:Creation × Chatting
特殊かつ専門的なことだからこそ会話して共有
転換:Creation × Changing
気分を変えてリフレッシュしながら作業
偶発:Creation × Connecting
カジュアルな出会いから生まれるひらめき
会話:Concentration × Chatting
電話やICTを利用したコミュニケーション
没頭:Concentration × Changing
モードを変えて"超"集中
均衡:Concentration × Connecting
作業をしたり、会話をしたり、気軽につながれる

社員満足度を上げ、顧客に求められる製品づくりへ

Q9 移転プロジェクトを振り返って小沼様ご自身のご感想と、今後に向けた展望をお聞かせください。

本社移転と全社の組織改革を並行して担当していたので大変でしたが、新しいオフィスのコンセプトを具現化していくプロセスはとても楽しかったですね。テレビの情報番組で20分にわたって紹介されるなど、新オフィスは多方面から注目されており、企業イメージ向上やリクルーティングにも役立つのではないかと期待しています。

移転して、オフィスの景色が変わりました。私自身も多くの社員との交流が増えました。あちこちで打ち合わせをしているのが見える。ねらいどおりstirされていて、活気があります。これだけ大胆な改革をして、ほぼ全員が満足という結果が出ているのは稀有なことかもしれません。それだけ、明豊さんが目に見えない部分でも綿密な調整をしてくれたのだと思います。

とにかく、一番大事なのは社員です。社員の満足度が高い会社だからこそ、お客様の要求を満たせる商品づくりができるのです。今後は、社会ニーズの変化に敏感であるために、stirによってこれまで以上に全員で知恵を出し合う風土を確立していきます。そして最終的に、業績向上にもつなげていければと考えています。

――小沼様、どうもありがとうございました。

取材で見学させて頂いたオフィスをご紹介

エントランス
高所の景色を生かした、引き込まれるようなダイナミックな空間構成。正面のシャンデリアはフォーカルポイントとなり、その周りは待合も兼ねている。
エントランスに入って左右に広がり、様々なルートを選択できる動線計画はワクワク感を向上させる。
歴史館:創造の小径
サトーの歴史を実物と映像で紹介。
紹介されているモノ、コンテンツにフォーカスできるよう照度を落とし、光により人を誘導している。
「本物にこだわる」というこだわりから壁面緑化もすべて生木としている。
カフェ
エントランスとショールームをつなぐ緩衝スペース。
少しカジュアルに、一息つける止まり木のようなエリア。
オリジナルドリンクの提供など社員のエンゲージメントを高める効果も担っている。
執務エリア
繋がりやコミュニケーションを生み出す場所を点在させたオフィスとし、見通しの良い開放的な空間としている。
居心地はもちろん、愛着をもって働いてもらえるよう、心地よさや温もりを感じる素材や色を中心にオフィス全体のインテリアを構成。機能ごとに家具の色を分けて、利用意図を示唆している。
コラボエリア
執務エリアとは異なる、よりカジュアルなデザイン。
天井を抜いた解放感を生かしリフレッシュエリアとしても活用。